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六六  トマ


 安息日が終わってから、私は前の日曜のように玄関の間の愛餐を見た。それはまだおそくなく、ランプはともされていなかった。何人かの使徒や弟子たちが広間におり、その他の者も集まって来るのを見た。かれらは出たり入ったりしていたが、長い衣を着てこの前のように祈りの用意をしていた。かれらがこうして準備をしている時、トマもまた広間に入って来た。私はかれらがトマに話しているのを見た。  

 二、三の者はかれの腕を握り、手をふりあげて断言していた。かれはしかし手早く着替えをし、かれらは自分らの言うことをかれが信じていないのを見た。そうするうちに、前掛けをつけた一人の男が入って来た。かれは召使いであった。その一方の手には灯った小さなランプを持ち、他の手には鈎のついた棒を持っていた。それでかれは広間の中央のランプを引き下ろして灯をともしてから再び高くあげて広間を出て行った。

 かくするうちに私は聖母がマグダレナともう一人の婦人と一緒に入って来られたのを見た。この三番目の婦人は玄関の間に残ったが、マリアとマグダレナは広間に入れられた。ペトロとヨハネは二人を迎えに歩み寄った。

 そうして扉は閉ざされ、一同は祈りに整列した。二人の婦人は扉の両側に立ち、手を胸の上に組んでいた。使徒たちはまず至聖所の前に跪いて祈ってから、ランプの下に並んで詩編を幾組にも分かれて唱えた。暫くして一同は休憩しお互いに語り始めた。かれらはティベリアデの湖の方に行こうと語り、その際どういうように分かれて行こうかと話し合っていた。しかし間もなくかれらの顔に、不思議な熱誠と興奮がはっきりと現れた。かれらは主のご近接を感じたのである。

 私はイエズスが輝くような白い衣を着、白い帯をして中庭を行かれるのを見た。主が玄関の間の扉に歩み寄られると、それは主の前に自然に開き、主の後に再び閉じた。玄関の間にいた弟子たちは、扉の方を見、さっと両側に分かれた。イエズスはしかし足早に玄関を通り抜け、広間にお入りになった。使徒たちもまた主のため直ちに場所をあけ、歩み入らせられた。主の歩みはしかし少しも普通の人のようではなく、また私が幽霊に見たような漂いでもなかった。 - 

 広間では一時にすべてがパッと広く明るくなった。イエズスは輝きに包まれていたが、弟子たちはこの光りの圏外に退き下がった。私は、そうしなければかれらは救い主を見ることができなかったのであろうと思った。 - 

 まずイエズスは「あなたちに平安あれ!」と仰せられ、次いでランプの下にお進みになると、自然に主の周りに狭い円ができた。トマはイエズスを一目見るや、非常に驚き恥ずかしそうに後ずさりをした。イエズスはしかし右手でトマの右手をとり、その人差し指を握ってご自分の左手の傷の中にお入れになった。それから主はまたかれの左手を取って、その指をご自分の右の傷に入れ、最後にトマの右手をご自分の衣の下に入れさせて、その人差し指を中指とを右脇の傷の中に入れさせられた。主はその時二言三言仰せになった。トマはしかし主の前に「私の主よ、私の神よ。」と言いながらひれ伏してしまったが、イエズスはなおかれの手をお握りになっていた。トマは失神したようになってしまった。まわりに立っていた人々はかれを支え、師はかれの手を持って再びひき起こされた。

 イエズスがトマの手を握られた時、私にはそのおん傷が血の流れる傷ではなく、輝きを放つ小さな太陽のように見えた。他の弟子たちはこの出来事に非常に感動し、主がトマに触れさせたおん傷を固唾を呑んで見つめた。 

 私は聖母がおん子のご出現の間、少しも外面的な感動を現さなかったのを見た。聖母は恍惚として、物静かな深い内面的な祈りに沈んでいた。マグダレナは、はるかに感動していたように見えたが、しかし弟子たちよりずっと外には現していなかった。

 イエズスはすぐにはお消えにならなかった。主はなお弟子たちとお語りになり、また少し食べ物をお求めになった。私は主のために隣の部屋から再び楕円形の小皿を主の所に持って来たのを見たが、それは第一回目のようなものではなかった。その上にはまた一切れの魚がのっていた。主はその食物を召し上がれられ、祝してまずトマに、次いで他の者にもお与えになった。さてイエズスはかれらが主を置き去りにして行ったにもかかわらず、なぜ今かれらの真ん中にお立ちになったかを説明された。主はまたペトロに、その兄弟を力づけるようにと言われたことを語られ、更にかれが主を否んだけれども、かれは指導者としてかれらにお与えになると仰せになった。それはまた羊たちの牧者となるのである。だからペトロは大いなる熱心をもつようにと仰せになった。 - 次いでペトロは主の前に跪き、主から小さな菓子のような丸い食べ物をいただいた。私は皿を見たことも覚えていないし、また何処からイエズスがそれを取り出されたのかも知らない。私はその食物が輝いていて、内面的なものであるのを見た。またペトロがそのために特別な力を得たことがわかった。

 私はまた救い主が使徒の頭(ペトロ)に息を吹きかけられて、特別な権力を注ぎ込まれたのを見た。さらに師はかれの上におん手をかざし、かれに力と他の者に対する大権をお与えになった。

 イエズスはまた聖霊がかれらに降臨された時の大洗礼についてお語りになった、また主がペトロに力をお与えになったように、他の者にも分け与えるように指示をなさった。主は最後にティベリアデの湖に行くようにお命じになった。そして救い主は消えられた。一同はその後感謝の詩編を唱えた。イエズスはこの時はそのおん母とも、またマグダレナともお話しされなかった。




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